人気ブログランキング | 話題のタグを見る

下弦の月

黙想

 つらい一日だった。
 
 懐かしいひと、最近顔見知りになった人、たくさんの人が参列し、彼のあまりにも早すぎる死を悼んだ。



 
 彼と初めて出会ったのはもう10年以上前。

 まだ彼が高校生で小柄、痩躯、髪はぼさぼさ、度の強そうなメガネを掛けていた。若い子にしては洒落っ気がないな、と思いながらながめていた。



 このテープ課題登りましたか? 人なつっこい顔でワタシにたずねてきたのが最初の会話だった。ああ、これは難しいからあきらめたよ、とワタシが言うと、もう少しなんですよ、ここができれば、とワタシの見ている前で懸命にムーブの練習をしていた。




 しばらくして、彼が相方の息子だと知った。 それからは時々、三人でテープ課題を登ることになった。 相方が彼にムーブを教えることもあったが、おおかたは彼からムーブを教わることが多くなった。





 相方はよく、あいつには負けたくないから頑張らないとな、と言っていたけれど、みるみる強くなり周囲に一目置かれるようになった息子を誇らしく思っていたようだった。





 着実に力をつけていった彼は、短期間のうちに当時の国内ボルダリングコンペの最高峰B-sessionに参戦することになった。彼のクライミング歴を考えるとそれが彼の才能の証しでもあったような気がする。




 彼はよく、うちのオヤジは口うるさいとか、小言ばかり言う、と言っていたけれど、相方からは、あいつは自慢の息子だ、誇りに思っている、あいつにはこの先も頑張ってもらいたいんだ、とよく聞かされた。




 相方が一昨年、急逝したとき何年ぶりかで彼に会った。大きな店舗を任されている重圧も彼には大きな自信となっているようで、すっかり逞しい男になり立派に葬儀を取り仕切っていた。




 折りがあれば、いつか彼に直接、相方の思いを伝えてあげたかった。あいつを誇りに思っていると、あいつは俺の自慢の息子だ、と言っていたことを伝えてあげたかった。 今となっては彼にそのことを伝えられなかったことが悔やまれてならない。





 二人とはあまりに突然で、悲しい別れになってしまったけれど、ワタシは二人と巡り会わせてくれたクライミングをこれからも続けていく。 いずれワタシもまた彼らと一緒に登れる日が来るだろうし、その時のためにも精一杯登っておかないと。




 二人のことは決して忘れない。他の人たちもそうだろう。 あのランジ課題は、誰も止められないよ、 いやミスターだったら止めるよ! と、きっとみんな口々に言うだろう。




 最強で最高のダイノマン!しばしのお別れだ!いずれまた。




*******************************************************************




..... Ads by Excite .....


  
 





 




    
by JIJI_MOUNTAIN | 2012-06-24 17:04 | Soliloquy | Comments(2)
Commented by 通りすがり at 2012-06-24 23:05 x
何でしょう・・この不条理感。
山の世界にいると、突然のお別れに遭遇することは多々あるが、
よりによって稀有な好青年が。
それも、予期せぬ交通事故で。

彼の分も登り続けましょう。
Commented by JIJI_MOUNTAIN at 2012-06-25 11:48
通りすがりさん、コメントありがとうございます。

 彼も父親に似て、家族思い、友人思いのいいやつでした。なにより真摯に仕事に取り組む姿は父親譲りでした。
 今回の事故も間近にせまったイベントの打ち合わせからの帰途に起きてしまったようですし、悔やまれてなりません。

 これからもクライミングを続け、ときおり彼のことを思い出してやることが供養だと思っています。
 
<< おかわり君 巡礼日和 >>



I can't stand not climbing, so realy?

by JIJI
S M T W T F S
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30
31
My Profile & link

■出身地:東京
■現住所:埼玉
■年齢:前期高齢者

■Climbing歴:
長年やっているけどいまだに何が楽しいんだか分からないオジイチャン。


■趣味:
『クライミングジム巡礼』
巡礼地:現在255店舗

■_Favorite page_■

▲Goro's LIFE GAME


最新の記事
登り初め
at 2024-01-09 21:15
2023年登り納め
at 2023-12-31 21:10
新装
at 2023-10-06 22:24
ボルクール
at 2023-07-20 21:35
はてさて面妖な
at 2023-06-01 22:43
以前の記事
2024年 01月
2023年 12月
2023年 10月
2023年 07月
2023年 06月
2023年 04月
2023年 03月
2023年 02月
2023年 01月
2022年 12月
2022年 09月
2022年 08月
2022年 03月
2022年 01月
2021年 12月
2021年 07月
2021年 06月
2021年 04月
2021年 03月
2021年 01月
2020年 12月
2020年 05月
2020年 03月
2019年 06月
2019年 03月
2019年 02月
2019年 01月
2018年 12月
2018年 11月
2018年 07月
2018年 04月
2017年 11月
2017年 10月
2017年 09月
2017年 08月
2017年 07月
2016年 09月
2016年 08月
2016年 07月
2016年 04月
2016年 03月
2016年 02月
2016年 01月
2015年 12月
2015年 11月
2015年 10月
2015年 09月
2015年 08月
2015年 06月
2015年 05月
2015年 04月
2015年 03月
2015年 02月
2015年 01月
2014年 12月
2014年 11月
2014年 10月
2014年 09月
2014年 08月
2014年 07月
2014年 06月
2014年 05月
2014年 04月
2014年 03月
2014年 02月
2014年 01月
2013年 12月
2013年 02月
2013年 01月
2012年 12月
2012年 08月
2012年 07月
2012年 06月
2012年 01月
2011年 12月
2011年 11月
2011年 10月
2011年 09月
2011年 08月
2011年 07月
2011年 06月
2011年 05月
2011年 04月
2011年 03月
2011年 02月
2011年 01月
2010年 12月
2010年 11月
2010年 10月
2010年 09月
2010年 08月
2010年 07月
2010年 06月
2010年 05月
2010年 04月
2010年 03月
2010年 02月
2010年 01月
2009年 12月
2009年 11月
2009年 10月
2009年 09月
2009年 08月
2009年 07月
2009年 06月
2009年 05月
2009年 04月
2009年 03月
2009年 02月
2009年 01月
2008年 12月
2008年 11月
2008年 10月
2008年 09月
2008年 08月
2008年 07月
2008年 06月
2008年 05月
2008年 04月
2008年 03月
2008年 02月
2008年 01月
2007年 12月
2007年 11月
2007年 10月
2007年 09月
2007年 08月
2007年 07月
2007年 06月
2007年 05月
2007年 04月
2007年 03月
2007年 02月
2007年 01月
2006年 12月
2006年 11月
2006年 10月
2006年 09月
2006年 08月
2006年 07月
2006年 06月
2006年 05月
2006年 04月
2006年 03月
2006年 02月
2006年 01月
2005年 12月
2005年 11月
2005年 10月
2005年 09月
2005年 08月
2005年 07月
2005年 05月
2005年 04月
2005年 03月
2005年 02月
2005年 01月
2004年 12月
2004年 11月
2004年 10月
2004年 09月
2004年 08月
2004年 07月
2004年 06月
2001年 08月
2001年 07月
2001年 06月
フォロー中のブログ
外部リンク