追慕

 今日、最後のお別れをしてまいりました。
 読経のあいだ、ずっとあなたとのことを思い返していました。
  

 
 知り合ったころは、お互い歳が同じとあってライバル心むきだしで
 競い合ってテープ課題に挑みましたね。
 でもしばらくすると二人でムーブを教え合ったり、相談しあったりするように
 なりました。

 初めての岩場は、河又でした。
 5.8や5.9をあなたに教えて貰いながらガタガタと震えながら登ったのを
 覚えています。あの時は、緊張して本当に怖かった。


 少し登れるようになった頃、初めて小川山に連れて行ってもらいました。
 ワタシは、5.6くらいのスラブでさえ怖くてしかたなかったけれど、
 あなたはヒョイヒョイ駆け登っていきましたね。
 その姿を見てかっこいいなあ、と憧れました。


 何度目かに小川山へ行ったとき、生まれて初めて、スラブのマルチピッチルートを
 登りました。
 あなたは、ワタシに「リードしてみる?」と訊きましたが、ワタシはあまりのボルト間隔に
 恐れをなして、フォローにしてもらいました。


 いつも以上に恐怖心と戦いながらなんとか頂上に辿り着いたと思ったら、今度は
 オーバーハングして空しか見えない絶壁からの懸垂下降。 
 初めての本格的懸垂下降がこの高さか、、意を決するまでにしばらく時間が掛かりました。


 
 やっとの思いで地上に降り立ったとき、「次回は、Tちゃんがリードするんだよ」とあなたが
 言ったので、「うん」と言いましたが、その約束はもう果たせなくなってしまいましたね。
 すみませんでした。


 
 それからお互いの仕事が忙しくなるまでは、毎週のように奥多摩の岩場へ通いましたね。
 今とは違って、どこの岩場に行ってもほとんど貸し切りでした。
 クライミングの合間には、同世代だからこそ分かり合える話題で盛り上がりました。


 ワタシが初めて5.12aを登れたとき、あなたは自分のことのように喜んでくれました。
 しばらくして、あなたも5.12aを登り、次は、5.12bだ、次は、5.12c と次々と
 お互いが、グレードを更新しあいましたね。
 あの頃の気持ちの高ぶりは、もう二度と来ないような気がします。


   
 二人ともお世辞にもうまいクライマーでも、うまいビレイヤーでもなかったですね。
 でも、あなたはどう思っていたかは分かりませんが、ワタシはあなたのビレイを
 心底から信頼していましたよ。
 

 あるときランナウト気味のルートをワタシがリードしていた時のこと。次のクリップで
 たぐり落ちしたら、ほぼ間違いなくグランドフォール。テンションをかけるかどうか
 迷っているワタシに、あなたは「行ける!行ける!ガンバだっ!」と声を掛けてくれました。



 意を決して、クリップホールドを必死でクリンプして、ロープをたぐり始めた瞬間、
 クリップホールドから指が弾かれて大フォール。
 グランドだ!と思っていたら、足先が地面をこするあたりでなんとか止まって
 いました。


 
 あなたとワタシ、お互い目をまん丸くして顔を見合わせたあと、大爆笑。
 駄目だと思ったよ、とワタシが言うと、オレも駄目だと思った、とあなたも
 言って、また大笑いしましたね。



 でもワタシは知っていました。ワタシが大フォールしたとき、あなたは引きずられて
 岩壁に激しく衝突していましたよね。必死の思いで止めてくれましたよね。
 あの時からワタシは、あなたのビレイに絶対の信頼を置いてきました。



 もしワタシが大怪我をしたり、不幸な事態になったとしてもそれはワタシのせいなのだと。
 あなたはいつも最善を尽くしてくれているのだと。 



 今となって思うのは、ワタシはあなたに相応しいクライミングパートナーであったのか、
 友人としても最善を尽くせていたのかと言うことです。




 願わくは、もう一度、あなたと二人、静かな岩場でのんびり青空を見上げながら
 クライミングがしたいです。
                                                        


 
[PR]

by JIJI_MOUNTAIN | 2010-06-22 21:58 | Soliloquy | Trackback | Comments(0)

トラックバックURL : http://jijiclimb.exblog.jp/tb/13495092
トラックバックする(会員専用) [ヘルプ]
※このブログはトラックバック承認制を適用しています。 ブログの持ち主が承認するまでトラックバックは表示されません。